1999

2011年01月28日

「1999」第3章 - 第3話「山下(1)」

第3話「山下(1)」

 NT手帳を受け取ったあと、僕には様々な仕事が舞い込むようになった。広報用のポスター作製だの、駅前でのビラ配りだのといったこまごまとした作業だ。イラストレーターとフォトショップに精通している僕は重宝がられた。
 僕の個人的な趣味のひとつに、運転免許証や保険証、及び戸籍謄本等の偽造というものがある。上記ふたつのソフトウェアは、この趣味には欠かせないものだ。このスキルがこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。陳腐な表現で恐縮だが、まさに「芸は身を助く」というやつである。

 こういった仕事を僕にアサインするのは、本庄という名の女幹部だった。本庄はひどい肥満体で、いついかなるときでも発汗していた。その汗を拭くために、常時ハンドタオルを携帯しているのだが、それには必ずディ○ニーキャラクターの模様がついている。

 本庄はディ○ニーマニアらしい。年に30回以上はTDLを訪れるのだと、彼女は僕に自慢げに語った。言うまでもないが、僕はそういったものに何の興味もない。気色の悪い裏声で語りかけてくるネズミや、アヒルのできそこないみたいなやつが不敵な笑みを浮かべて踊り狂う世界のどこに興味を感ずればいいというのか?僕には全く理解できないし、今後とも理解するつもりはない。

 僕は本庄がどうしても好きになれなかった。いい歳してディ○ニーマニアってのもかなり痛い話ではあるが、とにかく規則に五月蠅い女なのだ。集合時刻は厳守しろだの、ファイルをメールに添付する際は必ず圧縮しろだのと、細かいことにいちいちこだわるのである。おそらく彼女にとってルールとは、世界の安全性を保証するお守りみたいなものなんだろう。だからルールの存在意義や成り立ちにはまったく興味を示さず、あたかもそれが宇宙開闢の前から存在していたかのように、神聖なものとして扱おうとする。本庄にとってはあらゆるルールがモーセの十戒なのだ。ルールとは破られるために存在するのであり、マナーとは侵されるために存在するという絶対的信念を持った僕とウマが合うはずがなかった。水と油どころの騒ぎではない。TV版エヴァ信奉者と新劇場版愛好者の間に存在するそれと同程度の隔たりが、僕と彼女の間には存在していた。

 それはそうとして、本庄が柿原殺害と無関係であることはすぐに判明した。彼女はペンダントを常に首からぶら下げていたからだ。
 まあそれ以前に、彼女は人を殺せるようなタマではない。本庄は規則にうるさい以外のキャラクター性を持たない薄い女であり、完全なる脇役的存在である。
 そういった人間だけがディズニーの世界にどっぷり漬かることができるのではないかと、僕は思った。









 次に僕が標的としたのは山下、結城の両幹部である。この二人は仲が良いらしく、定例会にも必ず二人で現れる。一部信者のお姉さん方など、実は二人はデキてるんじゃないかと噂していたくらいだ。
 冗談じゃない。山下はヒキガエルが潰れたような顔をした30男で、結城は「ヒゲダルマ」という形容詞がこれ以上に似合う人類は存在しないんじゃないかと思うほど豪快な面構えをした御仁である。万が一ふたりの間に肉体関係があったとしても、それは801的な何かでは決してない。「さぶ」的な何かだ。BLはお呼びでないのである。どうも僕の周囲には、腐女子属性を有した女が多くて困る。あるいは僕がそういった女たちを引き寄せているのだろうか。もしかすると、この惑星に住む「女」という生き物の内には、皆多かれ少なかれ腐女子的な何かが存在しているのかもしれない。

 話がどうでもよい方向に逸れた。

 僕はこの二人とどう接触を試みるか考えた。これまでに接触した幹部たちと比べて、こいつらのガードは相当固い。とりわけ結城は自他共に認める教団内のNO.3であり(トップは言うまでもなくツキヨミで、NO.2は荒井だ)頭も切れるし、警戒心も強い。柿原について探りを入れようものなら、こちらの真意にすぐに気付き、瞬く間に僕はマークされてしまうだろう。

 落とすなら、山下の方からだ。




 そこで僕は、ある作戦をひねり出した。




(続く)




「1999」 - 登場人物紹介


posted by 魔王源 at 12:00| Comment(0) | 第3章
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